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何度読んでも新鮮で、自分の中に新しい感情を芽生えさせてくれる大切な本。



実家に取りに行けばあるのに、"新潮文庫の100選2021プレミアムカバー"なるものを発見して、つい買ってしまった。
キッチンにオレンジ色のイメージはないけどなぁ。どちらかと言うときみどり色だよなぁ。なんて思いつつ。(読んだ人には分かる) 

 

この本には、「キッチン」と「ムーンライト・シャドウ」という2つの作品が収録されている。
どちらも"喪失感"を抱えて苦しむ若者の話だ。 その喪失感といかに向き合い、乗り越えるか。
よく小説の題材にされるようなテーマだが、この物語の登場人物たちの不器用さが愛おしくて、この種の作品にありがちな正論の押しつけ感を感じずに素直に心に響くから不思議だ。



生きていると、色んな悲しい出来事がある。
他人に言えない悩みや葛藤も増える。
自分でもどうしたいのか、分からなくなる事もある。
そんな言語化しにくい複雑な感情を、物語を通して拾い上げて明確にしてくれた。気がする。



私が一番好きなシーンは、主人公のみかげが、カツ丼を持って雄一に会いに行く所だ。
長い道のりを経て冷めているであろうカツ丼が、不思議ととても暖かく美味しいもののように見えるのは、好きな人に美味しいものを食べさせたいという健気さが心を打つからだろうか。
こんなにもカツ丼を魅力的に描いた作品は、後にも先にもキッチンだけだと思う。
あまりにも好き過ぎて、この本を初めて読んだ日から「好きな食べ物は?」と聞かれたら即答で「カツ丼!」 と答えるようになった。
影響されやすい性格なのだ。




この本の持つ不思議な包容力に沢山の人が救われただろうし、 これからも沢山の人の生きるヒントになると思う。
久しぶりに読んで、とても幸せな気持ちになれた。
また数年後、読んだ時に私は何を思うだろう? 今からすごく楽しみだ。


まりねら